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恐らく完成版。しかし相変わらず自分しか推敲していない。
長くなりました、39.2kb程度です。

 紅霧異変から約一ヶ月。
 妖霧が立ち込めていた数日が嘘のように、幻想郷は騒がしく、明るくなっていた。
 異変に関わった者以外は、いつも通りの夏を過ごしつつ、秋の準備を始めている。
 異変に関わった者は、運命的な出会いを楽しみつつ、少しずつ生活を変化させていた。

 山の麓に湖がある。湖の中心地には島があり、そこに窓の少ない冥く紅い洋館、紅魔館
はたっていた。
 だがそれも数日前までの話、今は湖の畔にたっている。
 流水が苦手な吸血鬼である紅魔館の主、レミリア・スカーレットがわがままを言ったの
で、島から畔に移動させたのだ。わがままと言っても、生活に支障を来たすのだから仕方
がない事ではある。しかし湖は流水と言えないだろうし、吸血鬼でも蝙蝠などに変身すれ
ば流水といえど渡れる。
 やはり、ただのわがままなのかもしれない。

 紅魔館を動かすのに一役買ったり、働いているメイドの中で唯一の人間でありながら、
メイド長をやっている十六夜咲夜は、人間が寝静まるような時間に神社へ向かっていた。
 レミリアは異変を解決しにきた人間に興味を持ったのか、よく神社にお出かけするよう
になっていた。そのお出かけに同行することもあるし同行しない時もあるのだが、同行す
る時は決まって、レミリアが紅茶を飲みたい時だった。しかし、神社には美味しい紅茶を
入れる環境が整っていない。だから今までは茶葉やポットなど、美味しい紅茶を入れる道
具一式を持って行くようにしていたのだが、不便なのでスペアを神社に置いておくことに
した。
 今度のお出かけの時に、置いて帰ればいいだけの話だと咲夜は思ったのだが、レミリア
は今日の夜に置きに行くのが大事だと言って聞かなかった。
 そういう訳で、咲夜は大分快適になってきた夜を飛んでいた。
 手に持った籠は、中に何も入っていないかのようにぶらさがっている。

 ……幻想郷のはずれに位置する神社。
 その神社からそう遠くない場所の大きな木の上に、何の為に生きてるのか不明な宵闇の
妖怪、ルーミアは手を後に組みながら浮かんでいた。
 周りにもそれなりな大きさの木がまだらに立ち並び、地面からはまるで手入れがされて
いない雑草が好き勝手に伸びている。
 ルーミアはそんな草木の中から何かを探すかのように、地面を見下ろしていた。
 どれぐらいの時間そうしているのか、表情からは窺い知ることは出来ない。
 やがて近づいてくる何かに気づき、顔を上げる。
 惚けた顔、何も考えていなかったのだろう、なんの反応もしない。いつの間にか近くに
来ていた者が、誰かも分かっていないだろう。
 やがて眼の焦点が合い、ルーミアは見た目相応のあどけない笑顔をして言う。

「夜の境内裏は、ロマンティックだと思う?」

 神社の途中に妖怪がいるのを見て、咲夜はつい立ち止まってしまった。
「ロマンティックってのは面倒くさいものね」
 咲夜は溜息をつきながら手にナイフを持つ。
 そのナイフは全くの動作もなく、マジックのように突然出現した。
 そんなマジックを見ても、咲夜がナイフを構える姿を見ても、ルーミアは構えることも、
笑顔を崩すこともせずただ浮かんでいた。
「やりたいならやるけど、目的を邪魔する気はないよ」
 籠を見ながらルーミアが言う。
 その想定外の言葉に、咲夜は虚を突かれたような顔をしていたが――やがて目を細め、
睨むようにして言う。
「あんた、妖怪じゃないの?」
「妖怪よー。夜に人を食べる妖怪に出会うなんて、ロマンティックだわー」
 言いながらルーミアは両腕を広げ、楽しそうに演技がかった動作でくるりと一回転する。
 それを見た咲夜の手からナイフが無くなる。出現した時と同じように、全く動作も無く
ナイフは消え去った。
「本当に、ここは変なのばっかりね」
 咲夜は腕を組み、苦笑する。
 その仕草からは先ほどの一触即発な様子は微塵も無く、メイド服を着て片手に籠をぶら
さげたただの少女がそこには浮かんでいた。
「そうなのよね~。いきなり襲われそうになったり、たまんないわ」
 あんたも変よ、とルーミアが暗に答える。
 皮肉混じりなような言葉だったが、その笑顔からは嫌みったらしさは感じられない。
「邪魔しないのなら、もう行くわよ?」
「背後から襲ったりしないから安心していいよ」
 そう言ってルーミアは、咲夜が来る前の姿勢に戻った。
 何かを探すかのように地面を見下ろしている姿に、咲夜はルーミアが何をしているのだ
ろうかと少しの間見つめ、ふと違和感を覚えた。
 黄色い髪に結ばれた赤いリボン。時折吹く風によって、髪の毛と一緒に揺れている。
 リボンは普通のアクセサリーに見える。しかし、風によって揺れようとした瞬間、咲夜
にはリボンを中心に景色が歪んだように見えた。
 気のせいだろうかと、再度風が吹くのを待つ。
 しばらくして、また風は吹き、リボンは風に揺れた。だが、特に違和感を感じられない。
 咲夜は首を傾げる。
 そんな咲夜に気づいているのか気づいていないのか、ルーミアは相変わらず手を後に組
み、地面を見下ろしている。

 ――時よ止まれ

 懐中時計の音だけが響く、何者も動かない世界。自分以外のありとあらゆる景色から色
が抜け、灰色に染まる。
 何となく気になった咲夜は、じっくり観察しようと時間を止めた。自作の時計で時刻を
確認し、ルーミアを見る。
 瞬間、咲夜は目を見開き、すぐに探るような表情になる。
 灰色に染められた世界の中、リボンはその赤い色を失わずに存在していた。
 正確には髪全体が色を失っていなかった。時が進まない静止の世界の中、まるでその部
分だけ時が進んでいるかのように見えた。
(やっぱりこのリボンには何かがあるようね)
 咲夜は心の中で呟き、ルーミアを観察する。
 白のブラウスや赤い靴は全て灰色に染まっている。それを身に纏ったルーミア自身は、
文字通り時が凍ったように動かない。
 周りの景色がいつも通り固まった景色なのを咲夜は確認する。時間を止める能力が不完
全になった訳ではなく、リボンか髪に何かがあるのだろう。
 そう割り切り、咲夜はルーミアから視線を外し、リボンだけを観察する。しかし、いく
ら見たところで、何の変哲もないただのアクセサリーにしか見えない。強いて違和感を覚
えるとしたら、新品のように傷一つないことだろう。
 これ以上見ても何も得られないと判断し、咲夜はリボンに触ろうと手を伸ばす。

 ――が、触ることが出来ない。
 ルーミアが動くはずはなく、リボンも止まったまま。そうだからといって、咲夜が目測
を誤った訳でもない。確実にリボンに触れているように見えるのに、実体がないかのよう
にリボンに触れない。
 咲夜は再度手を伸ばしてみるも、やはりリボンの感触を感じることが出来なかった。少
し手を下にやると、さらさらとした髪の毛の感触が感じられる。
 それを確認すると、手を伸ばすのを止め、咲夜は腕を組みリボンを再度観察する。数度
呼吸した瞬間、左足を左斜め前方に出し、ハイキックの要領でリボンを蹴る。並みの人間
ならば一撃で吹き飛ばせるであろう勢いのキック。完全に体重を乗せた、瀟洒なハイキッ
クは、やはりリボンに触れることなく空を切った。
 姿勢を正し、咲夜は自問する。
(あの程度の力の強弱じゃ、結果に変化は無い。空間が曲げられてるのか? 実体がない
のか? 幻影か?)
 だが、空間が弄られている様子も無く、結界で隠されてるようにも見えない。それ以外
の理由、例えば魔法などの理由となると、咲夜には専門外だった。

 咲夜はしばらく悩んだ後、静止した時を元に戻す。
 再び景色に色が塗られ、世界が動き出す。
 ルーミアは、相変わらず地面を見下ろしたままである。
 時の止まった世界での出来事は、咲夜以外に認識出来ない。何の反応もないというのは
当たり前だが、今回に限ってその光景は、とてもわざとらしく感じられた。
 後ろ髪を引かれるような気持ちを抱きながらも、咲夜は神社へと仕事を片付けに飛び
去った。仕事の肝である紅茶セットが入った籠は、腕を組んだり、体重の乗ったキックを
空振ったにもかかわらず、何の支障も感じられない。

 ルーミアと出会う以外には何も起こらず、咲夜は神社に到着した。
 ふと、後ろを全く警戒していなかった自分に気づき、咲夜は愉快さと自嘲の混じった笑
みを浮かべた。
「妖怪の言うことを信じるようになったらおしまいね」
 咲夜はそう一人呟き、境内に入る。
 境内には月明かり以外の光源は無かった。
 木々が風で揺れ、落ち葉がカサカサと音を立てて揺れていた。
 神社の主が既に寝ているであろうことが分かる。
 咲夜は結界に気をつけながら、静かに荷物を置くと、速やかに紅魔館へと帰っていった。

 月が沈み始めている。数時間もすれば日が昇り始めるだろう。
 そんな時間でも、紅魔館の門には門番メイドが立っている。メイドは咲夜が帰ってくる
のを確認し、門を開ける。
「見張りご苦労様。異常は無い?」
 咲夜は門の前に降り立ち、メイドに尋ねる。
「はい、いつも通り何もありません」
「何か連絡とか伝言はある?」
「メイド長に対しての伝言があります。『今日はもう寝る。』とお嬢様からです」
「そうなの? ……伝言ご苦労様」
 確認と伝言を終えると咲夜は門をくぐる。
 咲夜は館に帰ったらレミリアを探す気だった。今日の夜に行かせた理由と、不思議な現
象について聞こうと思っていたのだ。しかし、既にレミリアは就寝中らしい。わざわざ伝
言を残すということは、眠りを邪魔するなということだろう。
 残った仕事を終わらせ、咲夜は床に就いた。何故という気持ちと、吸血鬼には生活リズ
ムというものが無いのか、という気持ちを抱きながら咲夜の一日は終わった。


 異変中にめぼしい物を探していた普通の魔法使い、霧雨魔理沙は紅魔館へ向かって箒に
跨り飛んでいた。
 魔理沙が異変で見つけためぼしい物は紅魔館にある図書館。その図書館に度々進入し、
本を読んだり、おやつを食べたりするのが最近の日常だった。めっきり神社に行くことが
少なくなっていたが、本を借りれば解決するということに気がつき、今日は特製の袋を
持ってきている。これで気分転換に神社に行って本を読むことも出来るだろう。
 今日はどんな本を読もうかと、紅魔館への移動時間の間、魔理沙は考える。明確な目的
がある訳ではなく、なんとなく本を読みに出発するのである。
 折角借りていくんだから、よく分からないけど面白そうな本を借りていこう。今日の魔
理沙そんな結論を出した。
 気づけば、もう湖が見えてきている。今日も紅魔館へ勝手に忍び込む作業が始まる。
 紅魔館は立食パーティーが開かれる程度の敷地に、塀がぐるりと囲んであり、正面には
立派な門がある。この門には当然ながら見張りのメイドが立っており、こっそり門を通る
ことは難しい。つまり正門からの侵入は、強行突破かアポを取らなければいけない。
 見張りが居ない塀は、簡単に飛び越えられるようにはなっていない。飛び越えられる侵
入者に合わせて、塀には結界がはられている。結界を無視して通ろうとすると弾かれる仕
組みになっており、これを破るか、抜ける必要がある。
 魔理沙は結界に関して素人なので、破ることも抜けることも出来ない。強行突破をして
しまうと忍び込みにはならない、そしてアポも無い。
 一見すると無理な作業な忍び込みだが、紅魔館には裏口があり、ここには見張りが立っ
ていない。少し発見し辛い程度で易々と外部の者の侵入を許すこの裏口は、進入すると咲
夜に感知されるようになっている。しかし、魔理沙にそんな事は関係なかった。裏口から
館に入り、変な繋がり方をしている廊下を攻略する。
 図書館へ着くまでに、仕事をしているようでしていないメイドが、魔理沙を見つける事
がある。そんなメイドは黙らせられるか、飴と引き換えに黙っていてもらうことになる。
 いつも通りさしたる苦労も無く、魔理沙は図書館についた。扉に手をかけ、開くと――

「やっと来たか」
「少し手間取ったようですね」
「少し程度で忍び込まれるのはどうかと思うわ」

 優雅に座りながら紅茶を飲むレミリアを中心に、本棚をずらして無理やり作ったような、
くつろぎ空間が出来ていた。レミリアの前には紅いクロスが敷かれた白い丸テーブル、周
りには高級感溢れる椅子が、全部で四つ並んでいた。左にある椅子、パチュリーの座って
いる椅子だけは専用なのか、背もたれが他とは違うように見える。
 少し変わった椅子に座ってるパチュリーは、魔理沙の登場に興味が無いかのように、椅
子にもたれながら本を読んでいる。手の届く場所には湯気が立ったカップが置いてあるが、
手をつけた様子は無い。
 一方、パチュリーの正面に座って、同じように視線を合わせない咲夜は、湯気の立つ
カップを両手に持ちじっと紅茶を見つめている。魔理沙より紅茶の温度が気になるのか、
それとも手を温めるのに必死なのだろう。
(何かしたかな?)
 正面に座るレミリアと視線を交わしながら、魔理沙はそんな考えを浮かべる。
 紅魔館に住む主要人物のほとんどが今、目の前にいる。図書館でわざわざ待っているに
足る理由が、魔理沙には思いつかなかった。
 いつでも逃げ出せるように、扉を開けたまま魔理沙は尋ねる。
「どういうことなんだぜ?」
 区切りのいい所まで読んだのか、それとも他のことに集中する気になったのか、本を閉
じてパチュリーが魔理沙を見る。
「あなた、そんな口調だったかしら?」
 いつもなら、「どういうことだ?」と言うだろう事は、魔理沙本人も気づいていた。い
きなりの事態に驚きつつ、それを隠そうとして失敗したのだ。
「質問に質問で返すと0点だよ」
 正面の椅子に座っているレミリアが、からかうように言った。お嬢様らしい優雅な座り
方はどこへやら、今はテーブルに肘をつきながら笑っている。風貌や態度を見ただけでは
とてもお嬢様には見えない。
「今のは質問じゃないわ。確認ね」
「とりあえず座ったら?」
 レミリアとパチュリーの掛け合いを気にせず咲夜が声を掛ける。
 魔理沙は少し悩んだ後、扉を閉め、自分の為に用意されたであろう椅子に座る。最初の
疑問に対する返答は無いが、様子を見る限り危険な雰囲気では無い。箒をテーブルに立掛
け、帽子を膝に乗せ、くつろぐ体勢になる。
 少し余裕が出てきたのもあり、軽い調子で魔理沙は咲夜に言う。
「メイドが何で椅子に座ってるんだ?」
「今は座るのが仕事なのよ」
 咲夜はそう言い切ると、少しだけ紅茶を口に含み、カップをソーサーに戻した。
「さて……」
 パチュリーとよく分からない会話をしていたレミリアが、突然呟き、全員の顔を見渡す。
「落ち着いたようだし、始めようか」
「説明してくれないかしら。何のためのわざわざ集めたの?」
 レミリアの宣言に、パチュリーが真っ先に反応した。
 魔理沙の為に説明しろという訳ではなく、どうやらパチュリーも訳も分からず召集をか
けられたらしい。咲夜もそうなのだろうかと、魔理沙は咲夜の顔を盗み見るが、分かって
いるのか分かっていないのかの判別はつかなかった。
 言葉を受けたレミリアが、真剣な表情で再度全員を見る。そして、深く息を吸い――
「ルーミアの、リボンについて」
 レミリアはそこで言葉を止め、全員に言葉が染み込むのを待つかのように、間を取った。
「あなたたちは、ルーミアのつけている赤いリボンについて、何か思うところはない?」
 リボンと聞き、魔理沙は妖霧の立ち込めた夜を思い浮かべる。
「あるぜ」
「あります」
「ないわね」
 魔理沙と咲夜が肯定する中、パチュリーが否定し、言葉を続ける。
「そもそも、私はルーミアとほとんど面識がないわよ」
「そうだろうね。パチェはルーミアがどんな妖怪かさえ、よく知らないだろう。しかしだ、
肝心のリボンについては、二人が何か話してくれるから大丈夫よ」
 レミリアは魔理沙を見る。
 それにならうようにパチュリーと咲夜も魔理沙を見る。
 魔理沙はその視線を受け、承諾ついでにレミリアに聞く。
「レミリアが思うことはないのか?」
「あることはあるわ。ただ、それは『ある』だろうと感じるだけで、何かが起こったから
そう思うってものでもないのよ」
 何もないのか、と魔理沙は呆れ顔で呟く。
 そんな魔理沙を無視して、レミリアは咲夜に目を移す。そんなレミリアに分かっている
とばかりに咲夜は頷く。
「私と魔理沙、どちらから話しましょう?」
「なんでもいいから早く話して」
 平坦とした声で、どうせどちらも聞くのだからとパチュリーが突っ込みを入れる。
「そうだね。じゃあ、魔理沙から話してもらおうか」
 特に理由も無く、レミリアは魔理沙を優先した。
 三人が魔理沙を見る。
 手元にある本や紅茶よりは、話に興味があるのだろう。
 その様を見て取った魔理沙は怪談でも話すかのように、静かな、重い調子で喋り始める。
「短い話だからな、ちゃっと済ませるぜ?」
 そう語尾を上げつつ、有無を言わせる暇なく魔理沙は言葉を続ける。
「一ヶ月前の妖霧の夜、ルーミアと弾幕ごっこをしたんだよ。勝負は私の勝ちだった。言
うまでもないが、ルーミアの服は所々破れていた。私の弾幕はパワーがあるからな、かす
っただけでも跡が残る……ってのは三人とも経験済みだな」
 そこで魔理沙は一旦言葉を区切る。
 魔理沙は三人ともを弾幕ごっこで負かし、服をぼろぼろにさせた事がある。ただ、魔理
沙以外の者に負けた場合でも服は解れたりする。具合が違うというだけで、弾幕ごっこを
すれば少なからず服が傷むものだが、魔理沙の場合は痛み具合が少しばかり酷かった。
「まぁそういう訳で、ルーミアは服がぼろぼろになってたんだ。だが、頭……印象的だっ
たのは髪だな。やり合う前と変わらず綺麗な黄色い髪のままだった」
 少しの間、魔理沙は何かが見えるかのように上を見た後、話を閉める。
「残念ながらリボンが汚れてたかどうかは、思い出せないな」
 話しを終えると魔理沙は椅子にもたれかかる。疲れた訳ではなく、もう話は終わりだと
いうジェスチャーである。
「ふん。黄色い髪ねぇ」
 魔理沙の話にレミリアだけが、不機嫌そうに反応した。
「とりあえず、それぞれの考えを披露するのは置いといて。次いこうか」
 その言葉を予想してたかのように、咲夜がレミリアに向かって頷いた。
「それでは、私のも手短に話させていただきます」
 背筋を伸ばしながらも、硬く見えない姿勢で咲夜は話し始める。
「今日の夜中、正確には一時二十分の出来事です。神社へ向かう途中でルーミアと会いま
した。邪魔する気はなかったようなんで、弾幕ごっこにはなっていません。少し言葉を交
わしただけです。その後、ルーミアはそっぽを向いて、何かを探してるみたいでした」
 咲夜は淡々と、事象を述べていく。
「何をしているのか気になったんでルーミアを見てたんです。しばらくして風が吹き、髪
が揺れようとした時、ルーミアのリボン周辺の空間が歪んだように見えました。擬音で表
すとモヤッて感じですね」
 咲夜の訳の分からない例えに、魔理沙は条件反射のように突っ込みを入れる。
「モヤッてなんだ。歪んだのなら、普通はグニャ~だぜ」
「咲夜のセンスに今更突っ込みを入れても仕方がないわ」
「全くね」
「お前が言うな」
 レミリアのセンスも相当なものと思っている魔理沙は、レミリアにも突っ込みを入れる。
 しかし、レミリアはそんな事を意に介した様子も無く、魔理沙を馬鹿にしたかのような
態度で言う。
「まぁ、普通なあなたには分からないかもね」
「そろそろいいかしら」
 主やその友人に自身のセンスを疑われても、主のセンスが疑われても、咲夜は動じずに
話を元に戻した。
「モヤッと歪んだ空間が何だって?」
 魔理沙がちゃちゃを入れつつも聞く体勢に戻る。
 レミリアもパチュリーも、既に咲夜を見ていた。
「気になったんで時を止めてみたら……時を止めると、私以外のモノは色が抜けて灰色に
なるんですけど、リボンと髪は灰色にならなかったのです」
 表情は変わらないが、咲夜の言葉に始めて熱が入った。
「その感覚は咲夜にしか分からないと思うけど、そのままの色だったってこと?」
「はい、赤いリボンに黄色い髪のままでした」
 咲夜が頷く。
 レミリアが少し面白く無さそうな顔をする。魔理沙の時もそうだったなと咲夜は思った
が、続きを話すことを優先した。
「リボンをよく見ても、ただのアクセサリーにしか見えません。ただ新品のように綺麗で、
傷一つありませんでした。それから触ってみようと、こう、手を伸ばしたんですよ」
 手を前に伸ばし、見えない何かを掴むようにしながら咲夜は続ける。
「でも、リボンを掴む事は出来ませんでした。まるで幽霊にでも手を突っ込んでいるみた
いに、触れてるように見えるのに感触がないんです。ただ髪の毛の感触はありましたね」
 ひらひらと手を振ったり、頭を撫でるような動作をしてから、咲夜は膝の上に手を戻す。
「手じゃ無理だったんで蹴ってみたんですけど、結果は変わりませんでした。以上が、私
の体験したことですわ」
 説明を終えた咲夜は紅茶を口に含む。やっと飲める温度にまで冷えたのだろう。


 魔理沙と咲夜の話が終わった。
 二人とも、宣言どおり長い話では無かったが、それでも一区切りがつき場が弛緩する。
「手で無理なら足か。トンチみたいだぜ」
 魔理沙が手をひらひらさせながら言った。
「足でも無理だったんだから、トンチキね」
「人間は使えないのよ」
「酷い言われ様ですわ」
 パチュリーとレミリアが紅茶を飲む。パチュリーは飲んだ後、考え込むように深く椅子
にかけて目を閉じた。
 突然、今気づいたかのように、魔理沙が咲夜に言う。
「私に美味しい茶は出ないのか?」
「咲夜、入れてあげなさい」
 レミリアに咲夜の視線が移るのと同時に、命令が下された。
「分かりました。紅茶でいいの?」
 主の命令に咲夜は適当な敬語で承諾する。
「渋い日本茶がいいぜ」
 テーブルに紅茶のポットしか無いのを分かりつつも、魔理沙は答えた。いじわるな気持
ちではなく、なんとなく紅茶より緑茶の気分だったのだろう。
 咲夜はそんな無茶な要求でも平然とした口調で注文を受け、時を止めて準備をする。
「勿論、用意してあるわ」
 時が動き出した時には、ポットが二つに増えていた。最初からそこにポットがあったか
のような動作でお茶を注ぎ、カップを渡す。ポットもカップも西洋風だが、無いものにま
で気を利かす事は出来ない。
 魔理沙が受け取ったお茶を飲む。途端に顔をしかめて咲夜を睨む。表情から察するに熱
かったのだろうが、咲夜は気に掛けなかった。
「じゃぁ、燃料補給もしたことだし……考察タイムに入ろうか」
 レミリアがパチュリーに向かって言う。
 パチュリーが目を覚ましたかのように目を開け、椅子に軽くかけ直した。
「たまには自分の意見も言いなさいよ」
「こういう時のパチェだろう?」
 最初から司会者で聴講者な立場のつもりだったのだろう。意見を言うつもりは全く無い
と言外に匂わせている。
 パチュリーが諦めたように溜息を付き、三人の視線を集める。そしていつも通りの、聞
き取れる程度の小声かつ早口に言葉を発する。
「――私が実物をよく見ていない以上、咲夜と魔理沙が体験した現象を全て信じる。それ
を前提にして話を進めるわよ。……その場合、起こった現象についてならいくらでも説明
がつくわ。現象の解説の例ではないけど、例えば咲夜には結界の知識がある。魔理沙には
魔術の知識がある。なら結界と魔術を組み合わせたモノが、そのリボンに仕込まれている
場合、両者を騙すのは簡単ね」
 咲夜にも魔術の知識はある。だがパチュリーからしたらそれは無いも同然なのだろう。
ただ奇術師を自称する自分が騙されたとするなら、それは少し、悔しいなと咲夜は思った。
考えた限りでは騙された様子は無かったが、パチュリーの言うとおり結界以外の事に関係
が深い現象だとしたら、騙される事はあるかもしれない。
 咲夜を思考状態にさせた当のパチュリーは、魔理沙の方の向かって話をしている。その
事に気づき、咲夜が我に返る。
「髪が汚れていない、傷が無いというのもそこまで不自然な出来事じゃないわね。簡単な
方法としては防護結界を少し頑丈にして被弾を少なくすればいいだけ。魔理沙のマジック
ミサイルは純粋な火力が高い分、魔力の方向を逸らしやすい。一部分の被弾を避けるだけ
なら容易だわ。レーザーなら一点を集中して防御すればいいわ」
 魔理沙もそれは承知の上なのだろう。相槌を打つだけで特に反論をする気は無いようだ。
「マスタースパークは……その様子じゃ撃っていないんでしょうね」
 当然だとばかりに魔理沙は頷く。
「あれを受けてなお髪が無傷だと言うのなら可能性が幾つか絞れるんだけどね」
 パチュリーが魔理沙の話は終わりと、今度は咲夜を見る。
「咲夜のも起こった現象を説明するだけなら簡単よ。リボンと髪の像を空間に映せばいい
だけ。これで色の問題は解決ね。リボンに触れなかったのは元からリボンだけ像だとすれ
ば咲夜に触れる訳ないわね」
 パチュリーが一気に説明を終える。
 魔法というものはそういうことも出来るのかと咲夜は考える。奇術の幅を増やすために
火を出したり出来る程度だが、もっと勉強した方がいいのかもしれない。
 そこまで脱線したところで、咲夜は思考をリボンに戻す。
「そんな事をする理由が分かりません。魔理沙の例は防護だと納得がいきます。しかし、
私の場合の目的はなんなのでしょうか?」
 元から悪い目つきを更に悪くして、パチュリーが咲夜をじろりと見る。
「私の言いたい事を先に言わない」
 今度はレミリアを見てパチュリーが言う。
「目的はなんなのか? それが重要なのよ」
 暗にレミリアに対しても言っているのだろう。リボンについてとレミリアは言っただけ
で、何の為にリボンの事を考えているのかが未だ不明なのだ。
 パチュリーは答えを期待していないのか、言葉を続ける。
「何をするにしても目的が必要なのは当たり前、一般に動機と呼ばれるわね。だから方法
を特定するのに目的は重要な情報になる事が多いわ。
 例えばルーミアに髪が汚い、禿ていて恥ずかしいから何とかしたいという目的がありそ
れが分かったとする。そうすると髪の像を空間に映しついでにリボンの像も映した、と
いった方法に信憑性が出てくる。リボンも映しているのは髪からの注意を逸らさせる為ね。
この方法と動機なら魔理沙と咲夜の現象両方とも説明がつく。
 こういった形で現象だけでは特定出来ない場合でも目的の有無で推測の幅が変わり方法
が特定出来たりするわ」
 あののほほんとした顔の裏で、禿に悩んでいる姿を咲夜は想像して、苦笑する。
 見れば魔理沙も、レミリアでさえも苦笑いを浮かべている。
「もう講釈はいいわよね。それでレミィはリボンについての何が知りたいの?」
 パチュリーはジト目でレミリアを睨む。
「そうだな……」
 パチュリーに言われ、レミリアはとうとう口を開く。
「ルーミアが何者なのかが私は知りたい。その参考の為に、目的も方法も知りたいね」
 レミリアは楽しげに、目的でもなく方法でもない事柄を知りたいと言った。
 その言葉に魔理沙が尋ねる。
「それなら何で“リボンについて”なんだ?」
「あのリボンは御札である。っていう噂を聞いたんだよ」
 さらりとレミリアは言ってのけた。
 魔理沙がその言葉に驚きを隠さずに言う。
「なんだそれ? 『ない』って言った言葉は嘘だったのか?」
「私は『ある』としか言ってないわ」
 レミリアがニヤリと笑う。
 咲夜にも『ない』という意味で伝わっていたが、どうやらわざとらしい。
「それにしても御札ですか……触れない御札なんて存在するのでしょうか?」
「そういう効果を記せばいくらでも作れるわよ。御札だからって紙や木で出来ていて触れ
るものだと思っているのかもしれないけどそんなの効果次第で何とでもなるわ」
 咲夜の問いに答えつつ御札という新しい情報を手に入れ、パチュリーが更に言葉を紡ぐ。
「しかしその噂が本当ならルーミア自身リボンの効果を把握していない可能性があるわ。
方法の判明が厄介になるかもしれないわね。まぁルーミア自身についてなんだから動機に
比べれば些細な事なんだけど……」
 語尾が尻すぼみになっていくのと同時に、パチュリーの元から険しい目つきが更に険し
くなる。御札だった場合の可能性を考えているのだろう。
 何故ルーミアが効果を把握していない可能性があるのか。咲夜はパチュリーの飛躍のあ
る程度は理解しているつもりだが、先の御札云々の話もあるので聞いておく事にした。
「ルーミアが効果を把握していない……ですか?」
 咲夜のオウム返し気味な質問にパチュリーは「ああ」と呟く。
「リボン、以下御札と呼ぶわね。魔理沙と咲夜が体験した事は十中八九御札の効果による
もので御札の作成者がルーミアではない場合自身が効果を知らなくても問題は無いわ。赤
ん坊でもナイフを持てば人を斬る事が出来るのと同じことね」
 そんな事は魔理沙にも分かっていたのか、どうでもいいとばかりにパチュリーに尋ねる。
「それで、御札だった場合何か分かるのか?」
「さっきと何も変わらないわ。魔理沙と咲夜が体験した現象は御札の本来の効果とは別の
ただの副作用の可能性もあるのよ。これだけで何か話せというのはいくらなんでも難しい
わね、せめて幾つかの違う現象を集めてくるか目的でも聞いてきて欲しいわ。今の情報だ
けだと目的も方法もろくな予想が出来ないわよ。この図書館で目当ての本を何も考えずに
探すぐらいに無謀な事だわ」
 それを最後に沈黙が場に訪れる。
 パチュリーもレミリアも、もう話すことがないようだ。元よりパチュリーは情報を整理
や補足の為に呼ばれ、レミリアはそれを聞く為に来たのだからしょうがないことではある。
 情報提供者役である人間二人が何かきっかけとなる話をすれば、この沈黙も無くなるだ
ろう。しかし、人間の一人である魔理沙は、レミリアを見つめたまま口を開こうとしない。
 ならば、と。リボンとは関係無さそうだから黙っていた事を咲夜は聞く事にする。
「お開きになる前に一つよろしいでしょうか」
「何?」
 咲夜の確認に、レミリアが承諾する。自然と咲夜に視線が集まる。
「さきほどの私と魔理沙の話で、お嬢様は黄色い髪という言葉に反応していました。何か
感じる事がありましたか?」
 両方の話の途中で、レミリアは黄色い髪に不機嫌そうな反応を見せていた。黄色い物が
嫌いという事は無かったように思えた咲夜は、レミリアの反応が気にかかっていた。
「先に断っておくわよ、その質問に対する回答は質問になってしまうと」
 この質問にレミリアは少し真剣な表情になり、やはり不機嫌そうに口を開いた。
「咲夜も魔理沙も、ルーミアの髪の色の事を黄色い髪って言うんだよね。普通に話してる
と、黄色い髪なんて言わずに金髪って言うと思うんだけど、貴方たちはいつも黄色い髪っ
て言うの? 例えば魔理沙の髪の色、黄色い髪? 金髪?」
 レミリアの回答には咲夜も、レミリアを黙って見つめていた魔理沙さえも困ったような、
驚いたような顔になる。
 その仕草だけで満足なのだろう。レミリアは更に続ける。
「二人ともルーミアの毛色は黄色い髪であると、無意識に感じてる訳ね」
 咲夜には魔理沙の髪と、記憶の中にあるルーミアの髪の色は同じように思えた。だが、
それを再確認してもなお、ルーミアの髪を言葉で表すのなら黄色い髪という単語が思い浮
かぶ。理性では金髪と言っているにも関わらず、感性は黄色い髪と言っている。
「さて。何故、そう感じたのか?」
 少しの間を置き、レミリアがパチュリーに言い、更に間を置き、パチュリーはレミリア
と同じく不機嫌そうに言う。
「何らかの暗示を受けたか、これも御札の効果なのかもしれないわね。ただ結局のところ
手段と目的が分からない。手段も目的もさっきよりマシな形にはなるでしょうけどね」
「どうもすっきりしないな」
 レミリアが溜息をつく。
「すっきりしないことなら他にもあるぜ」
 そんなレミリアに、魔理沙が突然言った。
「なんでルーミアを連れてこない?」
 三人の視線が魔理沙に吸い寄せられる。だが、誰もが何も言おうとはしない。
「どうした、まさか三人とも失念してたわけじゃないんだろう?」
 魔理沙の言うとおり、誰も驚く表情をしていなかった。手っ取り早い解決法の一つとし
て、浮かんではいたのだろう。
「情報の交換、整理をしたらルーミアを連れてくるんだと思ってたんだがな――どうもそ
の提案を意図的に避けてるように見えるぜ」
 それは咲夜も感じていた。わがままなレミリアなら、不機嫌になった時点で「ルーミア
を連れてこい」と言ってもおかしくないのに、言い出す気配がまるで感じられない。
「連れてきましょうか?」
「連れてくる? ……くくく」
 咲夜の言葉に、レミリアは、ひどく楽しそうに笑い出す。
 その仕草は、思い出し笑いとなんら変わらないものだったが、見た目が幼い吸血鬼だと、
どこか異様な光景にも見えた。
「笑ってないで説明してあげたら? 二人とも困ってるわよ」
 パチュリーは小さく溜息をつく。
 レミリアはいつもとは違う、どこか怒気を孕んだ笑みを浮かべ、魔理沙と咲夜を見る。
「そうかそうか、魔理沙も咲夜も知らなかったんだな。あれは……何年前だっけ?」
 思い出そうとする気もないレミリアに、パチュリーがさらりと答える。
「大体六年前ね」
 そうか。と呟き、レミリアは語りだす。


 ――妖霧異変の約六年前。紅魔館はまだ、幻想郷の外にあった。
 幻想郷より遥か西方の地で、レミリアは退屈していた。
 人間を支配するのは、近隣の村を襲っただけで飽きていた。
 近くに住んでいた妖精たちを支配して、家のメイドにしてみたが、暇つぶしのネタが、
一つ増えた程度だった。
 寝て、起きて。時々来る面白くも無い吸血鬼ハンターを返り討ちにする毎日。
 レミリアは、とても退屈していた。

 ある日、人間の貢物で納豆が差し出された。
 吸血鬼に豆を差し出す。しかも腐っているということに、舐められてるのかとレミリア
は思ったが、好奇心から食べてみると存外に美味しかった。納豆の詳細を聞いてみると、
東方にある日本という国の食べ物らしい。
 そんな事をきっかけに、レミリアは日本に興味を持った。
 そして日本について調べる内に、面白い情報を発見する。魑魅魍魎が跋扈する楽園、幻
想郷の事である。
 レミリアは幻想郷の妖怪を支配することにした。
 目的は勿論、暇つぶしである。
 スペルカードルール制定のきっかけにもなり、後に吸血鬼異変と呼ばれることになる異
変は、こうして始まった。

 太陽が空に滞在する時間が短くなってきている。乾燥した空気は最早感じられず、どこ
か湿った空気が漂う。木々から葉が少しずつ落ちていき、活発に飛び回っていた蟲たちも、
落ち着いた音を奏でている。夜に生きる妖怪たちにとって快適な季節が訪れた。
 レミリアは単身で幻想郷に来ていた。
 友人のパチュリーが図書館から動くはずもなく、メイドは連れてきても邪魔になるだけ
で、館の管理も任せないといけない。
 ぽつん。と、夜の幻想郷にレミリアは一人佇む。
 とりあえず片っ端から妖怪を叩きのめし、配下にすることにした。

 ――侵略ごっこをはじめて三日が過ぎた。侵略とはいっても、レミリアからしたら旅行
のようなノリである。相手が弱く、戦いはそう楽しいものでもなかったが、色んな妖怪と
対峙するのは観光のようで楽しかった。
 夜は適当に妖怪を叩きのめし、朝と昼は配下の妖怪の住処で休んだり話したりする。美
味しい紅茶が飲めないのは不満だったが、ここでわがままを言っても仕方がない。
 今日も、もっと面白い妖怪はいないかと配下の妖怪に聞いてみると、闇の妖怪というも
のがいるらしい。夜の王を自称するレミリアが興味を持たないはずがなく、次はその妖怪
を配下にしようと決めた。
 配下の妖怪に休む旨を伝え、レミリアは夜を待つことにした。

 太陽が沈み、辺りが暗くなり始めた。動くものは少なくなり、妖怪の、吸血鬼の時間が
やってきた。完全に暗くなってから数分後、レミリアは一人で外に出た。
 妖怪を配下にしているレミリアだが、配下と一緒に行動することはほとんど無い。情報
収集に提供、生活の世話をしてもらう程度である。
 今夜も闇の妖怪を探させただけで、行動はレミリア一人ですることになる。楽しい暇つ
ぶしを邪魔されると困るからだ。

 樹齢百年は経つであろう木が立ち並ぶ林。
 空には待宵の月が浮かんでいた。満月とそう変わりない月の光が、辺りに降り注いでい
る。月の影響か、それとも何かを歓迎しているのか、蟲の奏でる音はいつもより大きい。
風は吹いておらず、木々のざわめきが聞こえない分、余計に大きく聞こえるのだった。
 そんな蟲たちのコンサート会場に、闇の妖怪はいた。
 外見はレミリアより少し年上のように見えるが、表情や雰囲気を見ると、見た目よりも
年下のように見える。派手なお嬢様的服装なレミリアとは違い、白いブラウスに黒のジャ
ケットというシンプルな服装をしている。黄色い髪に赤いリボンを巻いた可愛らしい少女
は、周りにある木より一際高い木の頂上に立っていた。身体を揺らすことなく安定して
立っている様子から、ただの馬鹿ではないように見える。
「何か探しモノでもあるのかしら?」
 十メートルほど離れた位置にレミリアが浮いているにも関わらず、背中を向けたまま、
地面を見下ろす相手に向かってレミリアは言い放つ。
 不意打ちで倒してしまうのも戦略の一つではある。だがレミリアは圧倒的強さからくる
自信と余裕から、相手がどんな妖怪なのかを見てから倒すことにしている。所轄ごっこ遊
びなのだから、必死になって勝つ必要もない。
「そうね~、探しモノよ」
 少女はゆっくりと、レミリアの方へ身体を回転させて顔を上げ、のほほんとした顔でモ
ノを強調して答えた。
 その言葉と動作を確認すると、レミリアは指の力を抜いた両手を胸の前に持っていく。
見ようによっては幼女が縮こまってるかのようにも見えるが、当然そんなつもりは無く、
まるで自分を主張するかのようなポーズをして言う。
「探しモノが見つかったようで、よかったわね」
「あんたは探してない」
 少女は挑発にもならないような言葉に、怒った表情をする。
「私は探してたんだよ。はじめまして、私はレミリア・スカーレット。紅い吸血鬼よ」
「はじめまして、私はルーミア。宵闇の妖怪よ」
 突然の自己紹介に、少女改め、ルーミアはそっくりな自己紹介を返す。
 怒った表情は既に消えており、吸血鬼という言葉に反応も示さず、平然とした顔でレミ
リアを見つめている。
「ヨイヤミの妖怪?」
 ルーミアの言葉にレミリアが首を傾げおうむ返しをする。
 その仕草を見て取ったルーミアは、まるで教え子に物を教えるかのように話し出す。
「そう、宵闇。宵っていうのは、日本では夕べと夜半の間のことを言うのよ」
「闇の妖怪と聞いていたんだけどねぇ。ダークネスじゃなく、ダスクだったか」
 勝手な想像だが、闇の妖怪というのに大きな期待を抱いていたレミリアは、少し残念そ
うに肩を落す。
 しかしその落胆はすぐに解消された。想像とは違うモノではあったが、これはこれで面
白い妖怪なのには変わりない。
 前にいる妖怪を見極めるかのように、レミリアは鋭い目でルーミアを見つめる。
「探しモノは、見つかった?」
 睨むレミリアを前にしてもなお平然とした様子で、ルーミアが最初の問いをレミリアに
返す。
 ルーミアの発言を聞いていないわけではないが、レミリアは答えずに黙って見つめ、や
がて口を開く。
「お前は“宵闇の妖怪”か、“宵の闇の妖怪”なのかどっちだ?」
 ぽかんと口を開けるルーミア。しばらくして、とても楽しそうな笑みを浮かべ両腕を広
げた。
 後ろ手から自然と変えるようなポーズではない。何かを仕掛けるのか、それとも仕掛け
ているのかもしれないが、そんな様子は見られなかった。
「お互い探しモノを探すのは大変だね~。ところで、なんで手を広げてると思う?」
 明らかに質問の意味を理解していながら、返答になっていない回答を聞き終えると、レ
ミリアの顔に凄みが走った。
 先ほどの探るような目とはまるで違った。人間どころか妖怪でさえたじろぎそうな形相
をしたレミリアは、明らかな怒気を発している。
 その怒気を向けられても、ルーミアは両手を広げたまま体勢を変えようとしない。レミ
リアの答えを待っているのか、笑顔のまま向かい合う。
 そのポーズはまるで十字架のようにレミリアには見えた。そしてその想像は、吸血鬼は
十字架に弱いという迷信を信じ、十字架を必死に掲げる人間たちの姿を思い出させた。
 何故そんなものにやられなきゃいけないのかと、常々疑問に思っているレミリアには当
然の如く、十字架は効かない。だが吸血鬼が舐められているように思え、レミリアは十字
架を、意思を持って向けられると機嫌が悪くなることがよくあった。
「ふん。“聖者は十字架に磔られました”とでも言いたいのか?」
 ルーミアがそんなことを考えてポーズをとっているようには見えないが、レミリアは言
い捨てた。
 だがその吐き捨てられた言葉は、ルーミアのポーズを解き、身体を曲げさせた。
「ふふふ……あはははは!」
 突然腹を抱え笑い出す様を見て、レミリアが呆然とする。どう見ても、純粋に笑ってい
るようにしか見えない。
「あはは……あー、馬鹿にしてるわけじゃないよ? 本当に面白かっただけ」
 まだルーミアはくすくすと笑っている。
 完全に毒気を抜かれたレミリアだが、すぐに頭を切り替える。話をはぐらかすのなら、
配下にしてから聞けばいいのだから。
 話は終わりとばかりにレミリアが切り出す。
「もういいわ」
「?」
「私は妖怪を配下にしに来たの。……ようはあなたを倒す、OK?」
 そしてレミリアは攻撃態勢に入る。
 勝負に合図など不要でも、レミリアはルーミアの言葉を待った。
 それは余裕。満月とはいかなくても素敵な月夜なのだから、こんな妖怪に負けるはずが
ないという自信。
 それは意地。他の妖怪とは正々堂々と戦っているのに、こいつだけ普通にする訳にはい
かないという自我。
 それは誇り。昼か夜か、光か闇かも曖昧な奴に、夜の王である自分が苛立っている訳じ
ゃないという自尊心。
 今にも襲い掛かりそうなレミリアを見ながら、ルーミアがまた両腕を上げる。
「配下なんて嫌よ、面倒くさい」
 目を瞑りながら眉を上げ、ルーミアが言った。
 もう攻撃しようかとレミリアは思ったが、踏みとどまる。
「私が倒すって言ってるんだよ。大人しく配下になりな」
 低い、恫喝の意を含んだ言葉が夜に響く。
 それでもルーミアは怯まない。それどころか不機嫌な表情から一転、笑顔で言う。
「あなたじゃ、無理。私を倒すことは出来ないわ」
「…………!」
 その言葉を合図と受け取り、レミリアが空を蹴る。
 十メートル程度の間合い、吸血鬼には無いも同然。一瞬でルーミアの前に立ち、爪でな
ぎ払う。
 しかし爪が当たる直前にルーミアの姿が消え去った。爪はむなしく空を裂き、ルーミア
のいた場所にはただ夜の闇が浮かぶのみだった。
 攻撃を空振りし、対象が消えるのを見たレミリアは即座に上昇して林の上に出る。ルー
ミアを探しつつ、どこから来るか分からない攻撃に警戒する。
 ……だが攻撃の気配も、ルーミアの気配もどこにも感じられなかった。
「警戒しなくても大丈夫よ、何もしないわ」
 突如、ルーミアの声がレミリアの耳に届く。
 声の発生場所を探ろうと再度周りを見渡すが、全く特定出来ない。まるで闇が直接、空
気を震わせているかのようにその声は夜に響いていた。
「何がしたい? はやく出てきな」
 レミリアの苛立たしげな声が、夜に吸い込まれていく。
「出ていく訳ないじゃない。私はあなたを何とかできるような方法を持っていない。そし
て配下になるのは嫌。つまり逃げるのよ~」
「なっ……!」
 のんきな声で逃亡宣言をするルーミアに、レミリアは唖然とする。
「じゃあね~……」
 ルーミアは一方的に別れを告げる。声は遠く離れていくように小さくなり、夜の静寂だ
けが残された。
 月明かりが降り注ぐ中、レミリアは立ち尽くすしかなかった。


「なんて事があったのよ」
 レミリアの昔語りが終わる。
 パチュリーは興味が無さそうに本を読んでいるが、魔理沙には興味が湧く話だった。
 侵略ごっこという話にも驚いたが、それよりも、ルーミアのイメージを変えるかのよう
な内容に、魔理沙は身体を震わせた。“聖者は十字架に磔られました”の言葉に聞き覚え
がある分、余計に衝撃を感じる。
「自分が連れて来れないんだから、私でも連れて来れないってことか?」
「そんな事ないわ、連れてくるだけなら出来るでしょうね。でも、口を割らせるのは到底
無理。それなら連れてきても無駄ね」
 レミリアが優雅に笑みを浮かべながら言った。
「今のお話から、何か分かる事はないんですか?」
 連れてくるという話にはあまり興味が無いのか、咲夜がパチュリーに考察を求める。
 確かに考察は聞いておきたいと魔理沙はパチュリーへと視線を向ける。
 パチュリーは小さく溜息をつき、読んでいた本を閉じる。
「今のお話でルーミアについて分かる事は大きく見て三つ」
 手を本の上に置いたまま、パチュリーが相変わらずの早口で進める。
「一つ目、『髪が黄色に見える』という現象は少なくとも六年前には発生している。レ
ミィもルーミアの髪の色が黄色と思っている。吸血鬼にも効くわけね。
 二つ目、手を広げるというポーズには意味がある。敵が攻撃しようとしているのにも関
わらずそのポーズを取るのだから何かしら目的があるわけね。ルーミアという妖怪を知る
上で必要な事かもしれないわ。
 三つ目、レミィの知覚から抜け出す術を持っている。声は聞こえた訳だから瞬間移動系
の能力では無さそうね。身を隠すような能力だと考えられるわ」
 先を急かすように魔理沙は質問する。
「黄色い髪やポーズに関する考察は無いのか?」
「慌てなくても話すわよ。『黄色』というのは一般的に目立ちたいという意味が込められ
るわ。今正にこの話し合いで目立っているのだからそういう意味で黄色い髪にしているの
なら目的は達成出来てるわね。他に金髪を構成している『金色』というのは様々な色が組
み合わさって構成されている訳だけどこれを一色にすると『黄色』になる。つまり『黄
色』というのは純粋な色とも取れるわね。実際は光が反射して『黄色』が『金色』になる
訳だからある種の存在しない色になる。だから黄色い髪というのは暗示か何かによる効果
という可能性が高い。
 次はポーズについて。レミィにポーズについて尋ねた事から相手を試す目的なのかもし
れないわね。他には何かの始動キーを果たしている。レミィのお話の場合だと姿を消すと
いった効果の必要条件な可能性も考えられるわ。もし前者ならルーミアの考え方について
何か分かるかもしれないし後者なら能力について分かる事があるかもしれないわね。」
 姿が消えるのは闇でも操ってるんじゃないかしら。と三つ目の考察については投げやり
にパチュリーは話を終えた。
 出来るだけ落ち着いて聞いていた魔理沙だが、とうとう我慢が出来なくなった。レミリ
アの話が終わった辺りから、燻っていた持ち前の探究心が疼いてしょうがない。
 結局のところ、結論は本人に確かめないと分からないのだ。考える事も大事だが、この
場合は動いた方が手っ取り早いと魔理沙は考える。
「色々面白い話ありがとさん。今日のところはこれで帰るぜ!」
 返事をさせる暇も無く、言い放つと魔理沙は文字通り飛び出ていった。
 それを無言で見届ける三人、少しの間の後、咲夜が口を開く。
「どこまでが本当の話なんですか?」
 レミリアは微笑と共に答える。
「さてね」
 やれやれと立ち上がりながら、パチュリーが咲夜に言う。
「大事な本だけでも隠すの手伝ってくれない?」
「分かりました」

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