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タイトルはタイトルの通り。
長いです、35.3kb程度です。
まだ自分でしか推敲してない状態なので突っ込みどころ多数。

手直しほぼしてないモノですが、放置。
こんな状態だったんだなと再認識する用。
完成版

 幻想郷に妖霧が立ち込めた。妖霧は太陽をも隠し、地上は昼でも薄暗い。蝉の鳴き声は
小さくなり、里の人間は戸惑う事しか出来なかった。
 そんな中、妖怪や一部の人間だけが、この異変を楽しもうとしていた。

 異変を解決しようと、直感を頼りに出発した紅白の巫女と、黄色い髪にリボンを結んだ
妖怪が出会った。
「そーなのかー」
「で、邪魔なんですけど」
「目の前のが取って食べれる人類?」
「良薬は口に苦しって言葉知ってる?」

「良薬っていっても、飲んでみなけりゃわかんないけどね」
 数十秒の弾幕ごっこに決着がついた。妖怪に戦う意思が無いのを確認すると、巫女はさ
っさと湖の方向へ飛んでいく。
「甘党じゃないんだけどな~……」
 残された妖怪が一人呟やき、自分の服をチェックする。服が少し解れた程度で他に異常
はないようだ。それを確認すると、埃を払うかのように服を整え、月を見上げた。
 妖霧に遮られ霞んではいるが、空には紅い満月が浮かんでいた。

 巫女が妖怪と出会う前に通っていた道が、また騒がしくなっていた。
 その騒がしさは、それなりに早いスピードで妖怪に近づいてきている。

 めぼしい物を探そうと、湖に浮かぶ島を目指していた普通の魔法使いと、手を肩と水平
に上げた妖怪が出会った。
「それはまぁ、当然」
「で、なんでそんな手広げてるのさ」
「『聖者は十字架に磔られました』っていってるように見える?」
「『人類は十進法を採用しました』って見えるな」

「人類以外は、指は十本じゃないのかしら」
 数十秒の弾幕ごっこに決着がついた。
 めぼしい物を探しにきた魔法使いは、少しの期待を視線に込めて妖怪を見る。
 魔法使いの弾幕が激しかったのだろう、妖怪の姿は巫女にやられた後とは比べ物になら
ないぐらいぼろぼろで、服もところどころ破れている。
「十本じゃないのも、いるかもね。でも私の指は十本よ」
 妖怪が自分の姿を確認しながら不機嫌そうに答える。
 魔法使いは妖怪の指を確認する。指が十本より多ければそれはそれでめぼしい物だ。し
かし、当然の如くその期待は裏切られた。
「あんたも湖に向かってるんでしょ? いつまで見てるのよ」
 早く行けと言いたいのか、妖怪は湖の方向を指差した。
 魔法使いは指に釣られて湖の方向へと視線を移す。指が十本の妖怪の相手をするよりも、
もっと面白い物がこの先にあるだろう、確かにいつまでも見ている場合ではない。早く行
かないと全てが終わってしまった後になるかもしれない。
 もうここに用は無い。魔法使いは妖怪を一瞥し、湖の方向へと飛び去った。

 箒に跨り、霧の中を飛ぶ魔法使いは首を傾げていた。
 妖怪の姿に違和感を感じ取っていた。妖怪の服はぼろぼろになっていたが、髪の毛の部
分が見る限り全く傷もなく、汚れてもいなかったことに……

 魔法使いと妖怪との弾幕ごっこから三時間ほど経過した後、妖霧は少しずつその濃度を
落とし、幻想郷はいつもの夏の姿に戻った。
 巫女か魔法使い、あるいは両方が、異変の主を懲らしめたのだろう。



 ――霧の異変から約一ヶ月が過ぎた。霧が立ち込めていた時が嘘のように、幻想郷は騒
がしく、明るくなっている。
 異変に関わった者以外は、いつも通りの夏を過ごしていた。
 異変に関わった者は、運命的な出会いを楽しみつつ、少しずつ生活を変化させていた。

 湖の中心地には島がある。そこに窓の少ない冥く紅い洋館、紅魔館はたっている。
 だがそれも数日前までの話、今は湖の畔にたっている。
 流水が苦手な吸血鬼である紅魔館の主、レミリア・スカーレットがわがままを言ったの
で、島から畔に移動させたのだ。わがままと言っても、生活に支障を来たすのだから仕方
がない事ではある。しかし湖は流水と言えないだろうし、吸血鬼でも蝙蝠などに変身すれ
ば流水といえど渡れる。
 やはり、ただのわがままなのかもしれない。

 そんな紅魔館で、主であるレミリアのわがままを聞いたりメイドを纏めたりする紅魔館
のメイド長、十六夜咲夜は人間が寝静まるような時間に神社へ向かっていた。勿論、仕事
である。
 レミリアは異変を解決しにきた人間に興味を持ったのか、よく神社にお出かけするよう
になっていた。そのお出かけに同行することもあるし同行しない時もあるのだが、同行す
る時は決まって、レミリアが紅茶を飲みたい時だった。そして神社には美味しい紅茶を入
れる環境が整っていない。今までは茶葉やポットなど、美味しい紅茶を入れる道具一式を
持って行くようにしていたのだが、流石に不便なのでスペアを神社に置いておくことにし
たのだ。
 今度のお出かけの時に置いて帰ればいいだけの話だと咲夜は思ったのだが、レミリアは
今日の夜に置きに行くのが大事だと言って聞かなかった。
 寝ていたらこっそり忍び込んで置いていこう。そんなことを考えたりしながら、咲夜は
のんびりかつそれなりのスピードで神社に向かう。

 幻想郷のはずれに位置する神社。
 その神社からそう遠くない場所の大きな木の上に宵闇の妖怪、ルーミアは手を後に組み
ながら浮かんでいた。
 周りにもそれなりな大きさの木がまだらに立ち並び、地面からはまるで手入れがされて
いない雑草が好き勝手に伸びている。
 ルーミアはそんな草木の中から何かを探すかのように、地面を見下ろしていた。
 どれぐらいの時間そうしているのか、表情からは窺い知ることは出来ない。
 やがて近づいてくる何かに気づき、顔を上げる。
 惚けた顔、何も考えていなかったのだろう、なんの反応もしない。いつの間にか近くに
来ていた者が、まだ誰かも分かっていないのだろう。
 やがて眼の焦点が合い、ルーミアは見た目相応のあどけない笑顔をして言う。

「夜の境内裏は、ロマンティックだと思う?」

「ロマンティックってのは面倒くさいものね」
 咲夜は溜息をつきながら手にナイフを持つ。
 そのナイフは全くの動作もなく、マジックのように突然出現した。
 そして咲夜は攻撃態勢に入る。だがルーミアは構えることも、笑顔を崩すこともしない。
「やりたいならやるけど、あんたの目的を邪魔する気はないよ」
 その想定外の言葉に、咲夜は虚を突かれたような顔をしていたが――やがて目を細め、
睨むようにして言う。
「あんた、妖怪じゃないの?」
「妖怪よ。夜に人を食べる妖怪に出会うなんてロマンティックだわー」
 言いながらルーミアは両腕を広げ、楽しそうに演技がかった動作でくるりと一回転する。
 それを見た咲夜の手からナイフが無くなる。出現した時と同じように全く動作も無くナ
イフは消え去った。
「本当にここは変なのばっかりね」
 咲夜は腕を組みながら苦笑する。
 その仕草からは先ほどの一触即発な様子は微塵も無く、ただのメイド服を着た少女がそ
こには浮かんでいた。
「そうなのよね~。いきなり襲われそうになったり、たまんないわ」
 あんたも変よ、とルーミアが暗に答えた。皮肉混じりなような言葉だったが、その笑顔
からは嫌みったらしさは感じられない。
「邪魔しないのなら、もう行くわよ?」
「後から襲ったりしないから安心していいよ」
 そう言ってルーミアは、咲夜が来る前の姿勢に戻った。
 何かを探すかのように地面を見下ろしている。
 咲夜はルーミアが何をしているのだろうかと少しの間見つめ、ふと違和感を感じた。
 黄色い髪に結ばれた赤いリボン、時折吹く風によって、髪の毛と一緒に揺れている。
 リボンは普通のアクセサリーに見える。しかし、風によって揺れようとした瞬間、咲夜
にはリボンを中心に景色が歪んだように見えた。
 気のせいだろうかと、再度風が吹くのを待つ。だが次にリボンが風に揺れた時は特に違
和感を感じられなかった。咲夜は首を傾げる。
 そんな咲夜に気づいているのか気づいていないのか、ルーミアは相変わらず手を後に組
み地面を見下ろしている。

 ――時よ止まれ

 懐中時計の音だけが響く、何者も動かない世界。自分以外のありとあらゆる景色から色
が抜け、灰色に染まる。
 何となく気になった咲夜は、じっくり観察しようと時間を止める。自作の時計で時刻を
確認してから、ルーミアを見る。
 瞬間、咲夜は目を見開き、すぐに探るような表情になる。
 灰色に染められた世界の中、リボンはその赤い色を失わずに存在していた。
 正確には髪全体が色を失っていなかった。時が進まない静止の世界の中、まるでその部
分だけ時が進んでいるかのように見えた。
(やっぱりこのリボンには何かがあるようね)
 そう心の中で呟き、ルーミアを観察する。
 白のブラウスや赤い靴は全て灰色に染まっている。それを身に纏ったルーミア自身は、
文字通り時が凍ったように動かない。
 咲夜は周りの景色もいつも通り固まった景色なのを確認する。時間を止める能力が不完
全になった訳ではなく、リボンか髪に何かがあるのだろう。ルーミアから視線を外し、リ
ボンだけを観察する。しかし、いくら見たところで、何の変哲もないただのアクセサリー
にしか見えない。強いて違和感を覚えるとしたら、新品のように傷一つないことだろう。
 これ以上見ても何も得られないと判断し、咲夜はリボンに触ろうと手を伸ばす。

 ――が、触ることが出来ない。
 ルーミアが動くはずはなく、リボンも止まったまま、かといって咲夜が目測を誤った訳
でもない。リボンに触れているように見えるのに、実体がないかのようにリボンに触れる
ことが出来ない。
 再度手を伸ばしてみるも、咲夜はリボンの感触を感じることが出来なかった。
 少し手を下にやると、さらさらとした髪の毛の感触が感じられる。それを確認すると手
を伸ばすのを止め、咲夜は腕を組みリボンを再度観察する。
 数度呼吸した瞬間、左足を左斜め前方に出し、ハイキックの要領でリボンを蹴る。並み
の人間ならば一撃で吹き飛ばせるであろう勢いのキック。完全に体重を乗せた、瀟洒なハ
イキックは、やはりリボンに触れることなく空を切った。
 姿勢を正し、咲夜は自問する。
(あの程度の力の強弱じゃ結果は変わりなし。空間が曲げられてるのか? 実体がないの
か? それとも幻影か?)
 だが、空間が弄られている様子も無く、結界で隠されてるようにも見えない。魔法でこ
うなっている、などの理由になると咲夜には専門外だった。

 咲夜はしばらく悩んだ後、静止した時を元に戻し、神社へと仕事を片付けに飛び去った。

 それから何のイベントも無く、神社に到着した。ふと、後ろを全く警戒していない自分
に気づき、咲夜は愉快さと自嘲の混じった笑みを浮かべた。
「妖怪の言うことを信じるようになったらおしまいね」
 咲夜はそう一人呟き、境内に入る。
 境内には月明かり以外の光源が無い。木々が風で揺れ、落ち葉が風に揺られカサカサ音
を立てて揺れていた。
 神社の主が既に寝ているであろうことが分かる。
 咲夜は結界に気をつけながら、静かに台所に荷物を置くと、紅魔館へと帰っていった。

 月が沈み始めている。数時間もすれば日が昇り始めるだろう。
 そんな時間でも、紅魔館の門には門番メイドが立っていた。メイドは咲夜が帰ってくる
のを確認し、門を開ける。
「見張りご苦労様。異常は無い?」
 咲夜は門の前に降り立ちメイドに尋ねる。
「はい、いつも通り何もありません」
「何か連絡とか伝言はある?」
「メイド長に対しての伝言があります。『今日はもう寝る。』とお嬢様からです」
「そうなの? ……伝言ご苦労様」
 確認と伝言を終えると咲夜は門をくぐった。

 紅魔館へと帰ってきた咲夜はレミリアを探す気だった。今日の夜に行かせた理由につい
て質問した後、ルーミアについて聞こうと思っていたのだ。
 しかし、既にレミリアは就寝中らしい。わざわざ伝言を残すということは眠りを邪魔す
るなということだろう。
 残った仕事を終わらせ、咲夜は床に就いた。何故という気持ちと、吸血鬼には生活リズ
ムというものが無いのか、という気持ちを抱きながら咲夜の一日は終わった。


 異変中にめぼしい物を探していた普通の魔法使い、霧雨魔理沙は紅魔館へ向かって箒に
跨り飛んでいた。
 魔理沙が異変で見つけためぼしい物は紅魔館にある図書館。その図書館に度々進入し、
本を読んだり、おやつを食べたりするのが最近の日常だった。めっきり神社に行くことが
少なくなっていたが、本を借りれば解決するということに気がつき今日は特製の袋を持っ
てきている。これで気分転換に神社に行って本を読むことも出来るだろう。
 今日はどんな本を読もうかと、紅魔館への移動時間の間、魔理沙は考える。明確な目的
がある訳ではなく、なんとなく本を読みに出発するのである。
 折角借りていくんだから、よく分からないけど面白そうな本を借りていこう。今日の魔
理沙そんな結論を出した。
 気づけば、もう湖が見えてきている。今日も紅魔館へ勝手に忍び込む作業が始まる。

 紅魔館は高い塀に囲われており、正面に門がある。
 この門には当然ながら見張りのメイドが立っており、こっそり門を通ることは難しい。
つまり正門からの侵入は強行突破かアポを取らなければいけない。
 塀は塀で簡単に飛び越えられるようにはなっていない。飛び越えられる侵入者に合わせ
て塀には結界がはられている。結界を無視して通ろうとすると弾かれる仕組みになってお
り、これを進入のたびに破るか、抜ける必要がある。
 魔理沙は結界に関して素人なので破ることも抜けることも出来ない。しかし紅魔館には
裏口があり、ここには見張りが立っていない。少し発見し辛い程度で易々と外部の者の侵
入を許すこの裏口は、進入すると咲夜に感知されるようになっているのだが、魔理沙にそ
んな事は関係なかった。
 裏口から館に入り、変な繋がり方をしている廊下を攻略する。図書館につくまでに魔理
沙を見かけたメイドは、黙らせられるか、飴を渡して見逃してもらう。
 いつも通りさしたる苦労も無く、魔理沙は図書館についた。扉に手をかけ、開くと――

 レミリアと咲夜が、紅茶を片手に座ってくつろいでいた。
「やっと来たか」
「少し手間取ったようですね」
「少し程度で忍び込まれるのはどうかと思うわ」
 パチュリーは本を読んでいるが、手の届く位置に紅茶が置いてある。

 図書館に本棚をずらして無理やり作ったような、くつろぎ空間が出来ていた。白く丸い
テーブルに紅いクロスが敷いてあり、そのテーブルの周りには、古く見えつつも高級そう
な椅子が東西南北を示すかのように四つ並んでいる。魔理沙から見て左にある椅子、パチ
ュリーの座っている椅子だけは専用なのか、背もたれが他とは違うように見えた。
 少し変わった椅子に座ってるパチュリーは、魔理沙の登場に興味が無いかのように、椅
子にもたれながら本を読んでいる。
(何かしたかな?)
 図書館に歓迎するかのような状況に、魔理沙はそんな考えを浮かべた。
 紅魔館に住む主要人物のほとんどが今、目の前にいる。忍び込んだ先で、わざわざ待っ
ているに足る理由が魔理沙には見当が付かなかった。
 いつでも逃げ出せるように警戒しながら、魔理沙は尋ねる。
「どういうことなんだぜ?」
 区切りのいい所まで読んだのか、それとも他のことに集中する気になったのか、本を閉
じてパチュリーが魔理沙を見る。
「あなた、そんな口調だったかしら?」
 いつもなら、どういうことだ? と言うだろう事は、魔理沙本人にも分かっていた。い
きなりの事態に驚きつつ、それを隠そうとして失敗したのだ。
「質問に質問で返すと0点だよ」
 正面の椅子に座っているレミリアが、からかうように言った。魔理沙が入ってきた時は
お嬢様らしく優雅な座り方をしていたのだが、今はテーブルに肘をつきながら笑っている。
風貌や態度を見ただけではとてもお嬢様には見えない。
「今のは質問じゃないわ。確認ね」
「とりあえず座ったら?」
 レミリアとパチュリーの掛け合いを気にせず咲夜が声を掛ける。魔理沙に視線を向けず
に手の中の紅茶を見つめているのは、手を温めているのか、冷めるのを待っているのかの
どちらかだろう。
 魔理沙は言われたとおり唯一空いている、一番近い椅子に座る。最初の疑問に対する返
答は無いが、様子を見る限り危険な雰囲気では無いので、遠慮せずくつろぐ事にした。箒
をテーブルに立掛け、帽子を膝に乗せ、くつろぐ体勢になる。
 少し余裕が出てきたのか、軽い調子で魔理沙は咲夜を見て言う。
「メイドが何で椅子に座ってるんだ?」
「今は座るのが仕事なのよ」
 咲夜はそう言い切ると、少しだけ紅茶を口に含み、カップをソーサーに戻した。
「さて……」
 パチュリーとよく分からない会話をしていたレミリアが、突然呟き全員の顔を見渡す。
「落ち着いたようだし、始めようか」

「説明してくれないかしら。何のためのわざわざ集めたの?」
 本をテーブルに置き、パチュリーがレミリアに向かって言った。
 パチュリーが図書館内で、人の話を聞くための姿勢になっていることに、魔理沙が少し
驚いた顔でパチュリーを見る。
「ルーミアのリボンについて」
 レミリアはそこで言葉を止める。
 リボン。その言葉を聞いた魔理沙は、妖霧が立ち込めていた夜を思い出した。弾幕ごっ
この直後だというのに、ルーミアの髪、今覚えばリボンにも全くの傷や汚れは無かったよ
うに思える。あれは気のせいではなく、リボンの仕業だとレミリアは言うのだろうか。
 レミリアは全員に言葉が染み込むのを待つかのように、間を取った。
「あなたたちは、ルーミアのつけている赤いリボンについて、何か思うところはない?」
「あるぜ」
「ないわね」
「あります」
 魔理沙と咲夜が肯定する中、パチュリーが否定する。
「そもそも、私はルーミアとほとんど面識がないわよ」
「そうだろうね。パチェはルーミアがどんな妖怪かさえ、よく知らないだろう。しかしだ、
肝心のリボンについては、二人が何か話してくれるから大丈夫よ」
 レミリアは魔理沙を見る。
 それにならうようにパチュリーも魔理沙を見る。
 魔理沙はその視線を受け、レミリアに聞く。
「レミリアが思うことはないのか?」
「あることはあるわ。ただ、それは『ある』だろうと感じるだけで、何かが起こったから
そう思うってものでもないのよ」
 そう言うとレミリアは咲夜に目を移した。
 咲夜は頷き、主に問う。
「私と魔理沙、どちらから話しましょう?」
「なんでもいいから早く話して」
 レミリアと同じく咲夜の方を見ていたパチュリーが言った。苛立つような声ではなく、
どうせどちらも聞くのだから、同じ事だと言いたいのだろう。
「そうだね。じゃあ、魔理沙から話してもらおうか」
 三人が魔理沙を見る。
 手元にある本や紅茶よりは、話に興味があるのだろう。
 怪談でも話すかのように、静かな、重い調子で魔理沙は喋り始める。
「短い話だからな、ちゃっと済ませるぜ?」
 語尾を上げる魔理沙だが、有無を言わせる暇なく言葉を続ける。
「一ヶ月前の妖霧の夜、ルーミアと弾幕ごっこをしたんだよ。勝負は私の勝ちだった。言
うまでもないが、ルーミアの服は所々破れていた。私の弾幕はパワーがあるからな、かす
っただけでも跡が残る……ってのは三人とも経験済みだな」
 そこで魔理沙は一旦言葉を区切る。
 魔理沙の言うとおり、三人とも妖霧の夜に弾幕ごっこで負け、服が汚れたり破れた経験
がある。ただ、魔理沙以外の者、例えば霊夢に負けた場合でも服はぼろぼろになる。具合
が違うというだけで、弾幕ごっこをすれば少なからず服が傷むものだ。
「まぁそういう訳でさっき言った通り、ルーミアは服がぼろぼろになってたんだ。だが頭
……印象的だったのは髪の毛だな。やり合う前と変わらず綺麗な黄色い髪のままだった」
 少しの間、魔理沙は何かが見えるかのように上を見た後、話を閉める。
「残念ながらリボンが汚れてたかどうかは、思い出せないな」
 話しを終えると魔理沙は椅子にもたれかかる。疲れた訳ではなく、もう話は無いという
意思表示だろう。
「ふん。黄色い髪ねぇ」
 魔理沙の話にレミリアだけが、不機嫌そうに言葉で反応した。
「とりあえず、それぞれの考えを披露するのは置いといて。次いこうか」
 その言葉を予想してたかのように、咲夜がレミリアに向かって頷き、ルーミアとの出来
事を頭に思い描く。
「それでは、私のも手短に話させていただきます」

 背筋を伸ばしながらも、硬く見えない姿勢で咲夜は話し始める。
「今日の夜中、正確には一時二十分の出来事です。神社へ向かう途中でルーミアと会いま
した。邪魔する気はなかったようなんで、弾幕ごっこにはなっていません。少し言葉を交
わしただけです。その後、ルーミアはそっぽを向いて、何かを探してるみたいでした」
 咲夜は淡々と、事象を述べていく。
「何をしているのか気になったんで、ルーミアを観察していると風が吹きました。その風
が吹いた時に、ルーミアのリボン周辺の空間が歪んだように見えたのです。擬音で表すと
モヤッて感じですね」
 咲夜の訳の分からない例えに、魔理沙が条件反射のように突っ込みを入れる。
「モヤッてなんだ。歪んだのなら、普通はグニャ~だぜ」
「咲夜のセンスに今更突っ込みを入れても仕方がないわ」
「全くね」
「お前が言うな」
 レミリアのセンスも相当なものと思っている魔理沙は、レミリアにも突っ込みを入れる。
 しかし、レミリアはそんな事を意に介した様子も無く、魔理沙を馬鹿にしたかのような
態度で言う。
「まぁ、普通なあなたには分からないかもね」
 主やその友人にセンスを疑われても、主のセンスが疑われても咲夜は動じない。ここ幻
想郷では、辺鄙な所にあるせいか少しずれた者が多い。少なくとも普通を自称する魔理沙
よりは、普通であると咲夜は思っている。故に咲夜は気にせず話を元に戻す。
「そろそろいいかしら」
「モヤッと歪んだ空間が何だって?」
 魔理沙がちゃちゃを入れつつも聞く体勢に戻る。
 レミリアもパチュリーも、既に咲夜を見ていた。
「気になったんで時を止めてみたら……時を止めると、私以外のモノは色が抜けて灰色に
なるんですけど、リボンと髪は灰色にならなかったのです」
「その感覚は咲夜にしか分からないと思うけど、そのままの色だったってこと?」
「はい、赤いリボンに黄色い髪のままでした」
 咲夜が頷く。
 レミリアが少し面白く無さそうな顔をするが、咲夜は続きを話すことを優先した。
「リボンをよく見ても、ただのアクセサリーにしか見えません。ただ新品のように綺麗で、
傷一つありませんでした。それから触ってみようと、こう、手を伸ばしたんですよ」
 手を前に伸ばし、見えない何かを掴むようにしながら咲夜は続ける。
「でも、リボンを掴む事は出来ませんでした。まるで幽霊にでも手を突っ込んでいるみた
いに、触れてるように見えるのに感触がないんです。ただ髪の毛の感触はありましたね」
 ひらひらと手を振ったり、頭を撫でるような動作をしてから、咲夜は膝の上に手を戻す。
「手じゃ無理だったんで、蹴ってみたんですけど結果は変わりませんでした。以上が、私
の体験したことですわ」
 説明を終えた咲夜は紅茶を口に含む。やっと飲める温度にまで冷えたのだろう。

 魔理沙と咲夜の体験話が終わった。
 両者とも宣言どおり長い話では無かったが、それでも一区切りがつき場が弛緩する。
「手で無理なら足か。トンチみたいだぜ」
 魔理沙が手をひらひらさせながら言った。
「足でも無理だったんだから、トンチキね」
「人間は使えないのよ」
「酷い言われ様ですわ」
 パチュリーとレミリアが紅茶を飲む。パチュリーは飲んだ後、考え込むように深く椅子
にかけて目を閉じた。
 それを見た魔理沙が、気づいたかのように咲夜に言う。
「そういえば、私に美味しい茶は出ないのか?」
「咲夜、入れてあげなさい」
 レミリアは咲夜の視線を受けて、従者に命令する。
「分かりました。紅茶でいいの?」
 主の命令に咲夜が適当な敬語で承諾する。
「渋い日本茶がいいぜ」
 テーブルに紅茶のポットしか無いのを分かりつつも、魔理沙は答えた。いじわるな気持
ちではなくなんとなく紅茶より緑茶の気分だったのだ。
 咲夜はそんな無茶な要求でも、平然とした口調で注文を受ける。
「勿論、用意してあるわ。はい」
 次の瞬間、ポットが二つに増えていた。まるで最初からそこにポットがあったかのよう
な動作でお茶を注ぎ、カップを渡してくる。ポットもカップも西洋風だが、便利なメイド
ではある。
「あちっ」
 受け取ったお茶を早速飲んでみると、とても飲めた温度ではなかった。魔理沙が猫舌と
いう訳ではなくただ単に出来立てということだろう。融通が利かないメイドである。
「じゃぁ、燃料補給もしたことだし……考察タイムに入ろうか」
 レミリアがパチュリーに向かって言う。
 パチュリーが目を覚ましたかのように目を開け、椅子に軽くかけ直した。
「たまには自分の意見も言いなさいよ」
「こういう時のパチェだろう?」
 最初から司会者で聴講者な立場のつもりだったのだろう。意見を言うつもりは全く無い
と言外に匂わせている。
 パチュリーが諦めたように溜息を付き、三人の視線を集める。
「――私が実物をよく見ていない以上、咲夜と魔理沙が体験した現象を全て信じる。それ
を前提にして話を進めるわよ。……その場合、起こった現象についてなら、いくらでも説
明がつくわ。現象の解説の例ではないけど、例えば咲夜には結界の知識がある。魔理沙に
は魔術の知識がある。なら結界と魔術を組み合わせたモノが、そのリボンに仕込まれてい
る場合、両者を騙すのは簡単ね」
 咲夜にも魔術の知識はある。だがパチュリーからしたらそれは無いも同然なのだろう。
ただ奇術師を自称する自分が騙されたとするなら、それは少し、悔しいなと咲夜は思った。
考えた限りでは騙された様子は無かったが、パチュリーの言うとおり結界以外の事に関係
が深い現象だとしたら、騙される事はあるかもしれない。
 咲夜を思考状態にさせた当のパチュリーは、魔理沙の方の向かって話をしている。
 その事に気づいた咲夜が我に返る。
「リボンや髪が汚れていない、傷が無いというのもそこまで不自然な出来事じゃないわね。
簡単な方法としては、防護結界を少し頑丈にして被弾を少なくすればいいだけね。魔理沙
のマジックミサイルは純粋な火力が高い分、魔力の方向を逸らしやすい。一部分の被弾を
避けるだけなら容易ね。レーザーなら一点を集中して防御すればいいわ」
 魔理沙もそれは承知の上なのだろう。相槌を打つだけで特に反論をする気は無いようだ。
 パチュリーが魔理沙の話は終わりと、今度は咲夜を見る。
「咲夜のも起こった現象を説明するだけなら簡単よ。リボンと髪の像を空間に映せばいい
だけ。これで色の問題は解決ね。リボンに触れなかったのは元からリボンだけ像なら咲夜
に触れる訳ないわね」
 パチュリーが一気に説明を終える。
 魔法というものはそういうことも出来るのかと咲夜は考える。奇術の幅を増やすために
かじった程度だが、もっと勉強した方がいいのかもしれない。
 そこまで脱線したところで、咲夜は思考をリボンに戻す。
「そんな事をする理由が分かりません。魔理沙の場合は防護だと納得がいきます。しかし
私の場合の目的はなんなのでしょうか?」
 元から悪い目つきを更に悪くして、パチュリーが咲夜をじろりと見る。
「私の言いたい事を先に言わない」
 今度はレミリアを見てパチュリーが言う。
「目的はなんなのか? それが重要なのよ」
 暗にレミリアに対しても言っているのだろう。当然のようにレミリアは答えない。
 パチュリーも答えを期待していないのか、言葉を続ける。
「何をするにしても目的が必要なのは当たり前、一般に動機と呼ばれるわね。だから方法
を特定するのに目的は重要な情報になる事が多いわ。現象だけでは特定出来ない場合でも
目的の有無で推測の幅が変わり、方法が特定出来たりする」
 これはレミィが方法を知りたい場合ね。とパチュリーが付け加える。
「もう講釈はいいわよね。それでレミィはリボンについての何が知りたいの?」
 パチュリーはジト目でレミリアを睨む。
「そうだな……ルーミアが何者なのかが私は知りたい。その参考の為に、目的も方法も知
りたいね」
 レミリアは楽しげに、目的でもなく方法でもない事柄を知りたいと言った。
「でも魔理沙と咲夜が体験した現象はただの副作用の可能性もあるのよ。これだけで何か
話せというのはいくらレミィの頼みでも難しいわね。せめて幾つかの違う現象を集めてく
るか目的でも聞いてきて欲しいわ。今の情報だけだと目的も方法もろくな予想が出来ない
わよ。この図書館で目当ての本を何も考えずに探すぐらいに無謀な事だわ」
 それを最後に沈黙が訪れる。
 パチュリーもレミリアも、もう話すことがないようだ。元よりパチュリーは情報を整理
や補足の為に呼ばれ、レミリアはそれを聞く為に来たのだからしょうがないことではある。
 情報提供者役である人間二人が何かきっかけとなる話をすれば、この沈黙も無くなるだ
ろう。しかし、人間の一人である魔理沙は、レミリアを見つめたまま口を開こうとしない。
「お開きになる前に一つよろしいでしょうか」
「何?」
 それならばと口を開いた咲夜の確認に、レミリアが承諾する。
「さきほどお嬢様は黄色い髪という言葉に反応していました。何かありましたか?」
 魔理沙の話と咲夜の話、両方ともにレミリアは黄色い髪に不機嫌そうな反応を見せた。
 この質問にレミリアは少し真剣な表情になる。
「先に断っておくわよ、その質問に対する回答は質問になってしまうと」
 レミリアは、やはり不機嫌そうに口を開いた。
「二人とも、ルーミアの髪の毛について黄色い髪って言うのよね。普通に話してると黄色
い髪なんて言わずに金髪って言うと思うのよ。貴方たちはいつも黄色い髪って言うの? 
例えば魔理沙の髪の色、黄色い髪? 金髪?」
 レミリアの回答には咲夜も、レミリアを黙って見つめていた魔理沙さえも困ったような、
驚いたような顔になる。
 その仕草から二人とも金髪と言う人間であることがわかる。その反応は予想通りだった
らしく、レミリアは更に続ける。
「二人ともルーミアの毛色は黄色い髪であると、無意識に感じてる訳ね」
 そこまで言ってから、レミリアはパチュリーに向かって言う。
「さて、何故そう感じたのか?」
 少しの間の後、パチュリーはレミリアと同じく不機嫌そうに言う。
「何らかの催眠・暗示を受けた可能性があるわね。もしかしたらただ黄色いだけかもしれ
ないけど二人の反応を見てたらそれは無さそうね。ただ結局のところ手段と目的が分から
ない。手段も目的もさっきよりマシな形にはなるでしょうけどね」
「どうもすっきりしないな」
「すっきりしないことなら他にもあるぜ」
 溜息をつくレミリアに、魔理沙が突然言った。
「なんでルーミアを連れてこない?」
 三人の視線が魔理沙に吸い寄せられる。だが、何も言おうとはしない。
「どうした、まさか三人とも失念してたわけじゃないんだろう?」
 魔理沙の言うとおり、三人ともが驚く表情をしていなかった。手っ取り早い解決法の一
つとして、浮かんではいたのだろう。
 いくつかの情報交換、整理をしたらルーミアを連れてくるのかと魔理沙は思っていた。
しかし、どうもその流れに持っていく気がないように見えたのだ。わがままなレミリアな
らはっきりしない場合、不機嫌になった時点でルーミアを連れてこいと言ってもおかしく
ないのに、言い出す気配がまるで感じられない。
 咲夜も同じことを考えていたらしく、レミリアに言う。
「連れてきましょうか?」
「連れてくる? ……くくく」
 咲夜の言葉にレミリアはひどく楽しそうに笑う。
 その仕草は思い出し笑いとなんら変わらないものだったが、見た目が幼い吸血鬼だと、
どこか異様な光景にも見えた。
「笑ってないで説明してあげたら? 二人とも困ってるわよ」
 パチュリーは小さく溜息をつく。
 レミリアはいつもとは違って笑みを浮かべ、魔理沙と咲夜を見る。
「そうかそうか、魔理沙も咲夜も知らなかったんだな。あれは……何年前だっけ?」
「大体六年前ね」
 そして、レミリアは語りだす。


 ――妖霧異変の約六年前。
 レミリアは退屈していた。
 人間を支配するのにも、近くの村を襲っただけで飽きていた。
 近くに住んでいた妖精たちを支配して家のメイドにしてみた。
 暇つぶしのネタが、一つ増えた程度だった。
 寝て、起きて、時々来る面白くも無い吸血鬼ハンターを返り討ちにする毎日。
 レミリアは、とても退屈していた。

 ある日、人間の貢物に納豆が含まれていた。
 豆なのに美味しく食べられる納豆をきっかけに、レミリアは日本に興味を持った。
 そして日本について調べる内に、面白い情報を発見する。
 魑魅魍魎が跋扈する幻想郷の事である。
 レミリアは幻想郷の妖怪を支配することにした。
 目的は当然、暇つぶしである。
 スペルカードルール制定のきっかけにもなり、後に吸血鬼異変と呼ばれる異変である。

 太陽が空に滞在する時間が短くなっている。乾燥した空気は最早感じられず、どこか湿
った空気が漂う。木々から葉が少しずつ落ちていき、活発に飛び回っていた蟲たちも落ち
着いた音を奏でている。夜に生きる妖怪たちにとって快適な季節が訪れた。
 レミリアは単身で幻想郷に来ていた。
 友人のパチュリーが図書館から動くはずもなく、メイドは連れてきても邪魔になるだけ
で、館の管理も任せないといけない。
 ぽつん。と、夜の幻想郷に一人のお嬢様は立っていた。
 とりあえず片っ端から妖怪を叩きのめし、配下にすることにした。

 ――侵略ごっこをはじめて三日が過ぎた。侵略とはいってもレミリアからしたら旅行の
ようなノリである。相手が弱く、戦いはそう楽しいものでもなかったが、色んな妖怪と対
峙するのは観光のようで楽しかった。
 夜は適当に妖怪を叩きのめし、朝と昼は配下の妖怪の住処で休んだり話したりする。美
味しい紅茶が飲めないのが不満だったが、ここでわがままを言っても仕方がない。
 今日も、もっと面白い妖怪はいないかと配下の妖怪に聞いてみると、闇の妖怪というも
のがいるらしい。夜の王を自称するレミリアが興味を持たないはずがなく、次はその妖怪
を配下にしようと決めた。
 その話をしてくれた妖怪に休む旨を伝え、レミリアは夜を待つことにした。

 太陽が沈み、辺りが暗くなり始めた。動くものは少なくなり、妖怪の、吸血鬼の時間が
やってきた。完全に暗くなってから数分後、レミリアは一人で外に出た。
 妖怪を配下にしているレミリアだが、配下と一緒に行動することはほとんど無い。情報
収集に提供、生活の世話をしてもらう程度である。
 今夜も闇の妖怪を探させただけで、行動はレミリア一人ですることになる。楽しい暇つ
ぶしを邪魔されると困るからだ。

 樹齢百年は経つであろう木が立ち並ぶ林。
 空には待宵の月が浮かんでいた。満月とそう変わりない月の光が、辺りに降り注いでい
る。月の影響か、それとも何かを歓迎しているのか、蟲の奏でる音はいつもより大きい。
風は吹いておらず、木々のざわめきが聞こえない分、余計に大きく聞こえるのだった。
 そんな蟲たちのコンサート会場に、闇の妖怪はいた。
 外見はレミリアより少し年上のように見えるが、表情や雰囲気を見ると、見た目よりも
年下のように見える。派手なお嬢様的服装なレミリアとは違い、白いブラウスに黒のジャ
ケットというシンプルな服装をしている。髪に赤いリボンを巻いた可愛らしい少女は、周
りにある木より一際高い木の頂上に立っていた。身体を揺らすことなく安定して立ってい
る様子から、ただの馬鹿ではないように見える。
「何か探しモノでもあるのかしら?」
 十メートルほど離れた位置にレミリアが浮いているにも関わらず、背中を向けたまま地
面を見下ろす相手に向かってレミリアは言い放つ。
 不意打ちで倒してしまうのも戦略の一つではある。だがレミリアは圧倒的強さからくる
自信と余裕から、相手がどんな妖怪なのかを見てから倒すことにしている。
 所轄ごっこ遊びなのだから、必死になって勝つ必要もない。
「そうね~、探しモノよ」
 少女はゆっくりと、レミリアの方へ身体を回転させて顔を上げ、のほほんとした顔でモ
ノを強調して答えた。
 その言葉と動作を確認すると、レミリアは指の力を抜いた両手を胸の前に持っていく。
見ようによっては幼女が縮こまってるかのようにも見えるが、当然そんなつもりは無く、
まるで自分を主張するかのようなポーズをして言う。
「探しモノが見つかったようで、よかったわね」
「あんたは探してない」
 少女は挑発にもならないような言葉に、怒った表情をする。
「私は探してたんだよ。はじめまして、私はレミリア・スカーレット。紅い吸血鬼よ」
「はじめまして、私はルーミア。宵闇の妖怪よ」
 突然の自己紹介に、少女改め、ルーミアはそっくりな自己紹介を返す。
 怒った表情は既に消えており、吸血鬼という言葉に反応も示さず、平然とした顔でレミ
リアを見つめている。
「ヨイヤミの妖怪?」
 ルーミアの言葉にレミリアが首を傾げおうむ返しをする。
 その仕草を見て取ったルーミアは、まるで教え子に物を教えるかのように話し出す。
「そう、宵闇。宵っていうのは、日本では夕べと夜半の間のことを言うのよ」
「闇の妖怪と聞いていたんだけどねぇ。ダークネスじゃなく、ダスクだったか」
 勝手な想像だが、闇の妖怪というのに大きな期待を抱いていたレミリアは、少し残念そ
うに肩を落す。
 しかしその落胆はすぐに解消された。想像とは違うモノではあったが、これはこれで面
白い妖怪なのには変わりない。
 前にいる妖怪を見極めるかのように、レミリアは鋭い目でルーミアを見つめる。
「探しモノは、見つかった?」
 睨むレミリアを前にしてもなお平然とした様子で、ルーミアが最初の問いをレミリアに
返す。
 ルーミアの発言を聞いていないわけではないが、レミリアは答えずに黙って見つめ、や
がて口を開く。
「お前は“宵闇の妖怪”か、“宵の闇の妖怪”なのかどっちだ?」
 ぽかんと口を開けるルーミア。しばらくして、とても楽しそうな笑みを浮かべ両腕を広
げた。
 後ろ手から自然と変えるようなポーズではなく。何かを仕掛けるのか、それとも仕掛け
ているのかもしれないが、そんな様子は見られない。
「お互い探しモノを探すのは大変だね~。ところで、なんで手を広げてると思う?」
 明らかに質問の意味を理解していながら返答になっていない回答を聞き終えると、レミ
リアの顔に凄みが走った。
 先ほどの探るような目とはまるで違った。人間どころか妖怪でさえたじろぎそうな形相
をしたレミリアは、明らかな怒気を発している。
 その怒気を向けられても、ルーミアは両手を広げたまま体勢を変えようとしない。レミ
リアの答えを待っているのか、笑顔のまま向かい合う。
 そのポーズはまるで十字架のようにレミリアには見えた。そしてその想像は、吸血鬼は
十字架に弱いという迷信を信じ、十字架を必死に掲げる人間たちの姿を思い出させた。
 何故そんなものにやられなきゃいけないのかと、常々疑問に思っているレミリアには当
然の如く十字架は効かない。だが吸血鬼が舐められているように思え、レミリアは十字架
を意思を持って向けられると機嫌が悪くなることがよくあった。
「ふん。“聖者は十字架に磔られました”とでも言いたいのか?」
 ルーミアがそんなことを考えてポーズをとっているとは思っていないが、レミリアは言
い捨てた。
 だがその吐き捨てられた言葉は、ルーミアのポーズを解き、身体を曲げさせた。
「ふふふ……あはははは!」
 突然腹を抱え笑い出す様を見て、レミリアが呆然とする。
「あはは……あー、馬鹿にしてるわけじゃないよ? 本当に面白かっただけ」
 まだルーミアはくすくすと笑っている。
 完全に毒気を抜かれたレミリアだが、すぐに頭を切り替える。話をはぐらかすのなら、
配下にしてから聞けばいいのだから。
 話は終わりとばかりにレミリアが切り出す。
「もういいわ」
「?」
「私は妖怪を配下にしに来たの。……ようはあなたを倒す、OK?」
 そしてレミリアは攻撃態勢に入る。
 勝負に合図など不要でも、レミリアはルーミアの言葉を待った。
 それは余裕。満月とはいかなくても素敵な月夜なのだから、こんな妖怪に負けるはずが
ないという自信。
 それは意地。他の妖怪とは正々堂々と戦っているのに、こいつだけ普通にする訳にはい
かないという自我。
 それは誇り。昼か夜か、光か闇かも曖昧な奴に、夜の王である自分が苛立っている訳じ
ゃないという自尊心。
 今にも襲い掛かりそうなレミリアを見ながら、ルーミアがまた両腕を上げる。
「配下なんて嫌よ、面倒くさい」
 目を瞑りながら眉を上げてルーミアが言った。
 もう攻撃しようかとレミリアは思ったが、踏みとどまる。
「倒すって言ってるんだよ。大人しく配下になりな」
 低い、恫喝の意を含んだ言葉が夜に響く。
 それでもルーミアは怯まない。それどころか不機嫌な表情から一転、笑顔で言う。
「あなたじゃ、無理。私を倒すことは出来ないわ」
「…………!」
 その言葉を合図と受け取り、レミリアが空を蹴る。
 十メートル程度の間合い、吸血鬼には無いも同然。一瞬でルーミアの前に立ち、爪でな
ぎ払う。
 しかし爪が当たる直前にルーミアの姿が消え去った。
 爪はむなしく空を裂き、ルーミアのいた場所にはただ夜の闇が浮かぶのみだった。
 攻撃を空振りし、対象が消えるのを見たレミリアは即座に上昇して林の上に出る。ルー
ミアを探しつつ、どこから来るか分からない攻撃に警戒する。
 だが攻撃の気配も、ルーミアの気配もどこにも感じられなかった。
「警戒しなくても大丈夫よ、何もしないわ。」
 突如、ルーミアの声がレミリアの耳に届く。
 声の発生場所を探ろうと気を張り巡らすが、全く特定出来ない。まるで闇が直接、空気
を震わせているかのようにその声は夜に響いていた。
「何がしたい? はやく出てきな」
「私はあなたを何とかできるような方法を持っていない。そして配下になるのは嫌。つま
り逃げるのよ~」
「なっ……!」
 のんきな声で逃亡宣言をするルーミアにレミリアは唖然とする。
「じゃあね~……」
 ルーミアは一方的に別れを告げる。声は遠く離れていくように小さくなり、夜の静寂だ
けが残された。
 月明かりが降り注ぐ中、レミリアは立ち尽くすしかなかった。


「なんて事があったのよ」
 レミリアの昔語りが終わる。
 パチュリーは興味が無さそうに本を読んでいるが、魔理沙には興味が湧く話だった。
 侵略ごっこという話にも驚いたが、それよりも、ルーミアのイメージを変えるかのよう
な内容に、魔理沙は身体を震わせた。“聖者は十字架に磔られました”の言葉に聞き覚え
がある分、余計に衝撃を感じた魔理沙は椅子を立つ。
「今日のところは、これで帰るぜ」
 返事をさせる暇も無く、言い放つと魔理沙は文字通り飛び出ていった。
 それを無言で見届ける三人、少しの間の後、咲夜が口を開く。
「どこまでが本当の話なんですか?」
「さてね」
「大事な本だけでも隠すの手伝ってくれない?」
「かしこまりました」


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